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​ナマズ類の比較~ 1. ギギとコウライギギの違い

ここからはシリーズとして、他人の空似な、ナマズたちの簡単な違いについて説明していきます。対象はSNSでしばしば誤同定されている種類を取り上げて解説します。本来なら記載論文等、文献に基づいて形質なども比較しながら同定すべきなのですが、この特集では私の目線で、分かりやすそうな部位に着目し、シンプルな解説を目指しました。
​第1回目は日本固有種のギギと、特定外来生物にも指定されているコウライギギ(東アジア原産)について説明します。両者は同じTachysurus属で一見すると似ていますが、遺伝的には遠い全く異なる種類です。並べると違いが分かりやすいので、このページは比較的サイズの近い両種の個体を元に解説します。

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ギギ(日本固有種)

Tachysurus nudiceps (Sauvage 1883)

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コウライギギ(東アジア原産)

 Tachysurus sinensis Lacepède, 1803

 まず、両者を単純に見比べると、ギギは細長く、コウライギギは体高のある寸胴な体型をしており、特に頭後部から背鰭にかけて顕著に盛り上がります。顔つきはコウライギギの方が尖って見えます。ギギ場合、体型は性別で差が大きく、オスは身体が長く、メスは小型で寸胴な体型をしています。一方、コウライギギはあまり差がなく、南米に産するドラス科のナマズのように頭部の骨盤や背鰭と胸鰭の棘がとても発達していて、非常にがっしりとした容姿をしています。その為か、動きが硬い印象を受けます。

 ★重要!! 髭の数は一緒。識別ポイントにならない。

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ギギ

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Wiki〇e〇aなどのSNS情報でコウライギギの髭の数が合計4本…という根も葉もない誤情報が回ってしまい(元の文献の書き方にも問題がある)、騙されている方もかなり多そうな印象です。しかし、ギギ科では少ない種類でも6本、ギギコウライギギが含まれるTachysurus属は全種類合計8本の本数です。この世界に口髭が合計4本のギギ科は居ません…。

​★上から見た方が分かりやすいかも

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ギギ 28cm 雄

コウライギギ 25cm 雄

​こうしてみると、コウライギギの胸鰭の棘はギギの胸鰭の棘よりも随分長い事が分かります。それだけでなく、棘の色素も薄目で白っぽく、身体でよく目立つ部位になっています。また、髭も若干白っぽい様子があります。コウライギギは上からでも横からでもも頭部~背部の骨が浮き出て発達しているのがよく分かります。
顔つきではコウライギギの方が吻がよく尖ります。これも上からでも横からでもよく分かります。ギギも他の在来ギギ類の中では顔が尖る方なのですが、上から見た場合だと丸みがあり尖っている印象はありません。

​★尾の比較

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ギギ

尾柄はやや長い

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コウライギギ

尾鰭に2本の黒い線が入る

両種とも幼い頃、黒い帯状の線が尾鰭の上葉と下葉に1本ずつ見えます。しかし成魚になるとギギでは不明瞭になります。一方コウライギギでは、割とはっきり残り確認がし易いです。20cm以上の大きさでこの点がしっかり確認できれば、その魚はコウライギギとして間違いないと思います。

​◆幼魚・成魚の様子

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ギギ幼魚 6cm程

コウライギギ幼魚 6cm程

両種とも幼い頃は体表の模様が顕著です。コウライギギの幼魚はメリハリのある模様(画像のは色が飛んでますが)で、「井」の字の様に模様が見えます。成魚になってもこの模様は比較的原型を保っていて、採集時など緊張感のある場合など顕著に模様が浮き上がります。また、この頃からコウライギギは吻が尖り、頭部から背鰭にかけての盛り上りも見られます。また、背鰭と胸鰭の棘は太くて長く、よく目立ちます。目に関しても少し大きめの印象です。ギギではそいった特徴は目立っていません。成長するに従い背鰭と胸鰭の棘は太くなりますが、体色は黒味が強くなります。より大きな個体はコウライギギの様に頭部から背鰭にかけて盛り上がります(特に琵琶湖産)。それでも、体型は細長くコウライギギに比べてとてもスレンダーです。

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ギギ成魚
45cmに成長した個体

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コウライギギ成魚
25cmに成長した個体

成魚の大きさでは、ギギだと最大で45cm(通常35~40cm)、コウライギギは最大35cm(通常18~25cm)にまで成長します。大きさではギギの方が大きく成長します。採集したものが35cmを超えているようならまずギギで間違いないと判断して良いです。また、体表の模様に関しても、30cm以上のギギではほぼ確認出来なくなりますが、コウライギギだとはっきり残ります。

​◆生息環境

ギギの生息地の様子

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ギギは河川上流域から湖沼まで、多様な環境に現れますが、水の流れの悪い場所は嫌う傾向が強いです。池や沼に生息している場所があっても、底には湧水の影響や清涼な水が流入して酸素含有量が豊富であったりする事が殆どです。徳島県の河川で、山間部の早瀬の岩の下に潜むアカザ・クレード1を探していた時、本種の未成魚を採集したことがあります。アカザ・クレード1はあっさり流れに押されて網に押し込まれますが、本種はUターンしたり、しなやかに上流へ泳ぎ去る事も多く、かなり強い流れに対応したナマズだと感じました。

コウライギギの生息地の様子

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千葉県、茨城県 など

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ギギと対照的な生態をしているのがコウライギギです。先に説明した、その体型はあまり強い流れには向いていないと思われ、原産地でも帰化した地域でも流れの緩やかな河川下流域や池、沼、湖、それに続く水路などの穏やかな水域に生息している様です。更に、国内の在来ギギ類が苦手とするヘドロや泥底でやや水温が高く酸素含有量が低めの環境へも進入する為、国内では市街地や平野部で生息数が広がる傾向があるように思います。

​★最後に国内での分布状況

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ギギ

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コウライギギ

ギギに関しては、本州中部以西に分布する西日本のナマズで、水産関係の稚魚放流、観賞魚由来の放逐などに伴いそれ以外の地域に帰化してしまっています。一方コウライギギは東アジア(主に韓国や中国?)から持ち込まれ(観賞魚ルート?)現在のところ関東の一部で帰化したものが確認されています。一部地域ではありますが、水路といった小規模な水域でも見つかる事が増え、個体数も多くなってきている印象です。元々ギギの生息地でもない関東は両者が混在する水域は無いので、この地域で尾がしっかり切れ込んだギギ類を採集した場合、ほぼコウライギギと考えて良いでしょう。しかし、厄介な事に、近年はギギもこの地域で確認される事が増えました。ギギも観賞魚としてよく流通するナマズで、奥多摩のダム湖や東京都内の池のかいぼりで野外に放逐されたものと思われる個体が多数捕獲されています。近い将来、両種が混在する水域が増える可能性があるかもしれません。中国・朝鮮半島のギギ類と日本のギギ類はどの種に関しても系統が離れる為(日本産種間でも)、交雑などの心配はないと思います。ただ、ギギ科のナマズは同科異種と共存を選ばない(少なくとも日本産ギギ類は)種族なので、最終的にその水域では一種類のみになる可能性があります。

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